その人の生き方
2017年2月15日重度訪問介護を利用されている方の中には、『ちょっと手を伸ばして耳の横を掻く』『疲れたから肩を回す』、『自分から見える、ほんの少し歪んでいる置物の位置を直す』、『寒いけど今は窓を開けていたい』…など私が人の意見を聞くことなく自由に動いている事や、『特に深い意味はないけれど自分の意思でしている』事でも、いちいち自分の意思をヘルパーに伝えなければ実行できない方がたくさんいます。
そんな意思を伝える時、ヘルパーに「そんなことする必要あるの?」、「こっちの方がいいよ」とか言われることも多々あると思います。私なんか特に、『何となくこっちが落ち着く、私の事はほっといてくれ。』と思うことが多いので日々の自分の意思選択をいちいち説明するとなると、疲れるだろうなと想像しています。
しかしヘルパーも人間ですから意見もあります。それが人間社会です。
そのヘルパーの意見に同意できて意見を変えたり、めんどくさいから同意したり、そのヘルパーに理解できるようにわかりやすく説明したり、このヘルパーには説明するだけ無駄だとあきらめたり、とにかく自分の言うようにしてくれと何度も伝えたり・・・
ヘルパーに意思を伝える毎日です。それがその人の生き方になる。
そして私のヘルパー人生で知る限り、誰よりも、その自分の意思の実行のために戦い続けた、もの凄い暴れん坊が、この世を去って逝かれました。
はじめて会ったとき、(体が動けなくても言葉だけでこんなに大暴れできるのか)と驚いたものです。自分には自分の意思で生きる権利がある。何でわからんねんボケ!!そんな感じでした。
怒鳴る、罵る、叫ぶ。
意思が伝わらないヘルパーに対しての感情的な言動にあきれることもありましたが、この暴れん坊を通じて他のヘルパーさんのプロの仕事をたくさん見せてもらえました。ご本人から学んだこと、たくさんありました。
『あきらめたら終わりやで、あきらめたらそこで終わり。』
あきらめることがいいとか悪いとかではなく、あきらめたら終わりだと、そういう生き方を全うされたと思いました。
まだ走り回ることが出来た子供のころに、山に杉の木の苗を植えるアルバイトをしてたと言ってたけど、大きくなってるかなその木。
早起きして牛乳屋さんが配達した牛乳を飲んで回った話とか、河川敷を勝手に開拓して畑作った話とか、面白かったな~。また一つ、壮大な映画を見終えた感じです。
元気な時もしんどい時も、帰る時には『ありがとう気をつけて帰ってね』と言ってくれました。
ほんとにありがとうございました。
ええ声の利用者さんのこと
2016年8月19日はじめて訪問した時、埃とタバコの臭いが充満した、物の少ないお部屋でした。
マットがへこんだ折りたたみベットにタバコのヤニで茶色く変色した布団を敷いてその上で一日の大半を過ごし、ベットの前に置かれた段ボール箱をテーブルにして食事をされていました。
「この箱をテーブルにしていて、低くないですか?食べにくくない?」
と尋ねると
「これでええねん。死んだとき、片付ける人が迷惑するから、物は増やさん方がええやろ。」
とええ声で明るくおっしゃっていました。
何度も救急車で運ばれ、退院するたび薄味の料理をちょっと受け入れては、
「こんな味ないの食われへん!」とヘルパーに愚痴って、なんだかんだ愚痴りつつもヘルパーの訪問は断られることなく、あっという間に2年の月日が過ぎ、
気が付けばフライパンや、スライサー、給湯器、テーブルセット、…
いろんなものが増えていました。食事も台所のテーブルで召し上がられるようになっていました。
私「うわっ!給湯器ついてる!ついに水で顔洗うのがつらくなったん?!」
利用者さん「違うがな、自分ら(ヘルパー)が手袋して洗いものしてるから付けたってんや!」
私「うわっ!何?このリゾート地みたいなテーブルとイス?!」
利用者さん「ケアマネージャーが来たら、いっつも床で何か書いてるし、自分らもいつも床で何か書いてる(その日の訪問の記録)やろ、書きにくいがな!ここで書いたらええねん。」
最後にお部屋を片付けたご家族が
「物が増えててびっくりしました。偏屈な兄だったからヘルパーさんに迷惑かけてたんじゃないですか?」
と言われました。亡くなられて初めてご家族にお会いしましたが
「偏屈なところもありましたけど(笑)、ほんとに優しい方で、私たちへルパーを気遣って増えた物ばっかりです。」
と伝えることが出来てよかったと思いました。
ええ声の利用者さん
2016年6月18日ええ声で、焼き豚とべったら漬けとすき焼きのタレが好きな利用者さん。今日、亡くなられました。
先週緊急入院され、ご家族からの連絡で病院に行ってみたら
ええ声「この病院は携帯電話も使ったらあかんみたいで取り上げられたから、自分とこ(みんなの木)に連絡できへんし、刑務所や~」と元気にぼやいてはりました。
ええ声「今度の手術はいつもよりおおがかりやから、大丈夫かな?もう帰られへんかもしれんで、入院前にTSUTAYAでDVD買ったのに」と冗談風に話されてました。
私「今はしんどくないんやろ?じゃあ大丈夫やって。帰ってきてもらわな困るやんか、せっかくシーツ交換したのに」
ええ声「あ、そう、シーツ変えてくれたんありがとう。枕も捨てて、新しいのに変えようと思って買ってあるねん」
私「ますます早く帰ってこなあかんで」
ええ声「なんかあったら妹に連絡してくれたらいいから」
私「何で連絡するん、どうせすぐ帰ってくるやろ。」
ええ声「まあいつになるかわからんけど帰れるやろ」
帰ってこんかい!!
今日は、ええ声が塩分控えなあかんのに、いつも食べていた焼き豚とべったら漬けとカルピスでお見送りです
ああ…
始めて食べたけど、この焼き豚、美味しい。
偏屈で、とても気持ちの優しい方でした。
楽しい時間を ありがとうございました。